梁の上から


テキストしりとり企画2(通称ムカデ人間2):「今から最高に面白いテキストを書いていこうと思う。」

「今から最高に面白いテキストを書いていこうと思う。」
そこまで書いた所で、思わず苦笑して手を止めた。いくら面白い、評価されるようなテキストが書きたいからと言ってこんな書き出しはあんまりだ。もうずいぶんと長い事パソコンに向かっている。そろそろ休んでもいい頃だろう。汗を拭き、背伸びをして据え付けの冷蔵庫に向かい、ビールを手に取る。
温い。当然だ。こんな高層階では、冷蔵庫はまともに機能しないのだ。もっと涼しくて何もかも新しい低層階なら・・・と妄想するが、そんなものには自分は縁などあろうはずもない。あっという間に現実世界に戻り、「最高」とラベルに書かれた缶を苦々しく見つめる。やはり「最高」等と自称するものにロクな物は無い。特にこんなご時世ではな。

前世紀の末に起きた突然の第四次産業革命とテキストサイトブームによって世界は一変したと、学校ではそう習った。今では所有しているテキストサイトのPV数や拍手、コメント等によって「市民」としての階級が決定され、様々な権利や、居住棟の中での住める場所が決定される。
この宇宙まで届かんばかりの高さの居住棟の中で、上位の連中は涼しく快適な地上に近い下の方に、俺のような辛うじてサイトの所有を認められている人間は上の方に。ただ、中にはサイトの所有を認められていない連中もいて、そいつらは更に上の方に住んでいる。俺なんかまだマシな方さ、と温いビールを自分に納得させる。
気分転換にテレビを付けると、上位階級の管理人の失踪事件が報じられていた。もう今月で七件目だ。世界テキスト協会はまたしてもだんまりを決め込んでいる。下の方に住んでいる連中は連中で苦労が絶えないらしい。うだるような暑さと、息苦しさを感じた俺は申し訳程度の庭へと飛び出した。中より余計に暑い。おまけに熱風まで吹いてくる。しかし、息苦しさは幾らか紛れた。

「こんにちは。今日も暑いですね」
そう声をかけてきたのは、半年ほど前に隣へ越してきた青年だった。こいつがサイトの保有を認められたのはそう昔じゃないが、目下凄い勢いで階級を上げている最中で、俺はその事もありあまり快く思っていなかった。とりあえず適当に返事を返すと、
「最近はどうですか、面白いテキストを書けていますか」と聞いて来た。
「まぁ、ぼちぼちだな」
実際の所はさっぱりだったが、見栄もあってそう答えた。俺から逆に聞く事はしなかった。いつもの自慢話が始まるに決まっている。越してきたときからそうだ。まぁ、嫉妬心が無かったとは言わないが、ともかく奴の自慢話を聞くような気分ではなかったので、俺は適当に誤魔化して部屋へと戻った。

戻ると、一通のメールが届いていた。「最高に面白いテキストの書き方」と大きく見出しがあり、いつも通りの売り文句が並べてあったが、不思議な事に差出人や資料請求先、注文の番号といったようなものは書いていなかった。
そんな上手い話があるものか、とそのメールを削除した。その時はそうだった。

2017/1/2
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