梁の上から


連続共通テーマ企画〜テーマは続くよどこまでも?〜

第二夜「異世界」

誰もがある種の憧れを持つ「異世界」。そんな異世界への扉は案外身近に開いているものだ。今日はそのことについて書き記したい。
つい先日の事だ。ふと散歩がしたくなった小生は少し遠出をし、とある公園を徘徊する事にした。その公園へ向かうために電車に乗ったのだが、小生はわずかな違和感を覚えていた。言葉にはできないが、何かがおかしい。しかしその違和感はこの時点では余りに小さく、気のせいとしておくのが一番であったように思えた。

暫く電車を乗り継ぎ、目的地である公園に着くと、違和感の正体が明らかになったように思えた。人が明らかに多すぎるのだ。平日だというのに、老若男女問わず、余りにも多くの人間が遊びに来ていたのだ。彼らの仕事は?学校は?様々な疑念が小生の胸に巻き起こる。これほどの人間が平日に暇を持て余しているという事実に、小生は背筋が寒くなった。
だがそれですらこの後待ち受ける恐怖の前奏曲に過ぎなかった。暫く徘徊を続ける内、小生はふと眠気を感じ木陰の椅子に座り微睡んでいた。目覚めると、小生は辺りの空気が変わっているのを感じた。しかし小生はこんな所で眠ってしまったせいだろうと苦笑し、散歩を再開した。

ふと恐ろしい事に気が付いた。仮にもここは観光地としても知られる公園であるし、また季節がら眺めも良いものである。普通なら、その景色を眺めながら歩く人間が多いのが普通というものである。しかし今まで、小生が見かけてきた人間は、誰もかれも、何やら俯き加減に自分の顔の前に近づけた両手を眺めながら、何か呟きながら、歩いているのである。周りを見ている人間など誰も居なかった。これに気付いた瞬間、先程までの機の狂うような暑さはどこへやら、悪寒が止まらなくなった。
何故彼らは自分の両手ばかり眺めているのか?何かの儀式なのか?そういえば・・・と先程空気が変わったのを感じた事を思い出す。もしや・・・最悪の想像が頭を過ぎる。そういえば同一の空間にも複数の世界が存在しうると聞いた事がある。では小生は何らかのカルト教団の支配する世界に来てしまったのではないか?それに気づいた瞬間、小生は襲い来る恐怖に怯えながら、逃げ去るようにその公園を後にしたのである。どれ程歩いたのかは定かではないが、ともかく小生は「普通に」観光をしながら歩き回る人たちの間に戻っていた。

「自分の顔の前に近づけた両手を眺めながら、何か呟きながら、歩いてい」た人たちが見ていたのはスマホだった事に気が付いたのは帰宅してからの事である。それにしたってほぼ全員がスマホ見ながら歩いてるってのは常軌を逸しているように思うが。

2016/8/4
関連記事
topに戻る
inserted by FC2 system