梁の上から


ふと自分の口をついて出た言葉に、我ながら驚愕した。自分が今更そのような事を言うとは・・・。必然たり得ない偶然は無いのだろうか、後になってみると、確かに「予兆」とでもいうべきものが見えてきたが、それでもやはりなぜあんな事になったのかはわからない。

それは、少し前の季節にしては妙に暑い日の事だった。その日も「いい波が来そうだ」などと言いながらパソコンの前に座ってネットサーフィンを嗜んでいた。それで一日が終わるはずだった。
普段ならそうして一日を過ごしていた所で何とも思わないのだが、ぼんやりと窓の外を見ていると何故か家にいるのが惜しくなってきた。天気が良かったせいだろうか、それとも風に誘われたのだろうか、ともかく小生は散歩へと飛び出したのであった。

当然、行くあてなどある筈もなく、風に吹かれるままあっちへふらふらこっちへふらふらと歩き続けた。公園を過ぎ、神社を過ぎ、住宅地を過ぎ、それでもなお歩き続けた。
遂には後悔が襲ってきた。ただ暑くて疲れるだけで何も得るものはない、家に居た方が良かった、と。だがそれでも歩みは止まらなかった。

ふと恐ろしくなった。何故自分は歩き続けているのか?なぜそもそも散歩に出たのか?自分が寄生型の宇宙生命体に操られている可能性さえ脳裏に浮かんできた。これはアブダクションなのか?自分はUFOに向かっているのか?葉巻型か?アダムスキー型か?
だが答えは出なかった。いよいよ喉の渇きが限界に近付いてきており、疲れと暑さを忘れようとする為の馬鹿げた考えは中断された。とにかく何か飲みたい。冷えたコーラだと特にいい。小生は最早ただその一心で動いていた。

そしてスーパーマーケットを見つけた。駆け込んだ。あのような、恐ろしい罠が仕掛けられていようとは思わずに。
早速店内を飲料コーナー求めて探し回る。ふと、妙に人が多い事に気が付く。別段行きつけのスーパーではないが、それでも日時を考えれば妙に人が多いような気がする。見回すと、特別セールをやっているらしいことが分かった。そして小生は破滅的な結果をもたらした「アレ」を目にする事になる。

「東証一部上場記念」のセールだという事を示すビラだった。
反射的に、小生は呟いていた。どうせなら全部上場すればいいのに、と。
この世界には、「ベタ」や「お約束」を通り越して最早誰も使いたがらないほどのネタが存在する。そして時にそれを言ってしまう事は、誰よりも自分に想像以上の衝撃を与える。
今回はまさにそれだった。数秒後、自分が何を言ってしまったかに気付いた小生は崩れ落ちそうになる膝と戦っていた。
その後の事は、あまりよく覚えていない。ひょっとすると、本当に・・・いや、やめておこう。

2015/5/1
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